天体観測ぶろぐ

ティエリが活躍した19世紀中葉

2011年05月17日

ティエリが活躍した19世紀中葉は、人々が「ブランド」に馴染みはじめた時代でもあった。産業革命後の経済成長や、鉄道の敷設などによって機動力が急速に高まるなかで、人々の生活様式や時間・空間感覚も急速に現代的なものへと近づいていった。時代の「動き」に対応する品物への要求も、これまでにない規模で生じていく。人々の装いへのこだわりも高まる一方だった。現代でも、家庭内や近所への外出にしっかりと化粧をする女性はさほどいないだろうが、ある程度の距離を伴う外出となるとそれなりに気を遣うものだ。同様に、交通網の発達によって、人々が地域社会の枠を越えて遠出をはじめるなかで、外見に対する関心も急激に高まっていったのである。同時期に登場した百貨店や女性雑誌などを通して様々な商品が知られるようになり、「ブランド」も広く定着していった。「クチュリエール・デザイナー」という職業が誕生し、服にその名前を入れた小さなタグを付けることが一般化したのもこの時代のことだ。機能性とデザイン性を両立させた高級品の作り手のいくつかは、「プレミアム・ブランド」として現代まで存続している。新しい時代の「動き」をいちはやく捉えた「定番」をつくることで成功したプレミアム・ブランドも多い。例えば、ルイ・ヴィトンは1854年にパリで世界初の旅行鞄専門店を開き、「革新的」なトランクを発表して瞬く間に名声を確立した。鉄道や船の旅行に適した耐久性と防水性を備え、しかもこれまでのドーム型と違って大量に積むことができる平型のトランクは、時代のニーズに応えるものだった。発売後まもなくから、「偽ヴィトン」被害は相次いでいる。バーバリーやアクアスキュータムも同じ時代に防水布によるコートを考案して、一躍名声を確立している。エルメスの場合、現代に繋がる大きな飛躍の契機はティエリの時代よりおよそ半世紀後の、20世紀はじめに訪れることになる。